側にいた綾子も、何とか桜子を落ち着かせようと必死になるが、桜子の苛立ちは、一向に収まらない。

「返せ。」

「あ、あの……」

依楼葉が困った顔をすると、桜子は急に依楼葉に飛びついてきた。

「女御様!?」

慌てて周りが抑えるが、桜子は尚も依楼葉に飛びつく。

「お止め下さい!」

「返せ!私の……私の!」

依楼葉が桜子を見ると、目が血走っている。

「返せ!帝を……帝を返せ!」

桜子の血走っている目が、涙で濡れている。


桜子は、依楼葉と帝が惹かれ合っている事を、知っているのだ。

「藤壺の女御様……」

自分の気持ちを抑えるくらいに、この人には敵わないと思っていた相手が、今度は自分に敵わないと、嫉妬に狂う。

宮中は、何て呪いの場所なのだろうと、依楼葉は改めて思った。

この人と一人の帝を奪い合って、生きていけるのだろうか。

依楼葉が、そう思った時だ。

答えは、もう出ていた。