依楼葉は、帝を落ち着かせようと、相手の腕を摩った。

「大丈夫でございます。気が紛れれば、満足致します故。」

依楼葉は立ち上がると、綾子と一緒に、藤壺へと向かった。

「いつもすみません。藤壺様は、和歌の尚侍がいらっしゃると、気が落ち着くようでございまして。」

「いいえ、綾子様も気苦労が多い事でしょう。」

綾子と依楼葉は、互いに苦労を労いながら、藤壺に戻るのが、日課になっていた。


「藤壺の女御様。和歌の尚侍が、いらっしゃいました。」

依楼葉が来ると桜子は、扇を手に叩き始めた。

「すまぬな。和歌にどうしても、聞きたい事があるのだ。」

「はい。何なりと、お聞きください。」

それは、毎日のように繰り返されている事だった。

「そなたが、尚侍になった頃にのう。衣が一つ、減ってしまったのだ。」

「……衣で、ございますか?」

「そうじゃ。思い当たる事は、ないか?」