「……お帰り下さい。」

依楼葉は、先手をきった。

「帰らぬ。」

それでも帝は、動じない。

「話を聞いてほしい。」

真っすぐに伝わってくる声。


依楼葉は、その声に負けて、御簾を開けてしまった。

「このような、時間に……」

言葉の途中で、帝は依楼葉の手を取った。

「私が勝手に訪れたのだ。そなたが気に病む事ではない。」

その瞳は、自分を包み込むような、優しい声だ。


この声に、いつまでも包み込まれていたい。

依楼葉はそう思った。


「聞いて欲しい。私の話を。」

「どんなお話でも、帝のお話とあれば、お聞きいたしましょう。」

依楼葉は、頭を下げた。

「いや、帝としてではなく、そなたの恋人、桜の君として聞いてほしいのだ。」

帝の口から、”桜の君”と言うのは、二度目だ。

そう、一番最初に名乗って頂いた時以来。

それほど、自分を一人の男として、見て貰いたいと言う事なのであろう。