「もし本当に懐妊ならば、国を揺るがす一大事!安心に育つように診て頂くのが、よろしいかと。」

「言うな!もうよい!下がれ!」

何でもない時に言えば、心穏やかに聞いて貰えるものを、帝や自分に疑われた事で、心を固く閉ざしているのだった。

綾子は、仕方なく下がるしかなかった。

「己、和歌の君。藤壺様をこのように思いつめた事、許す訳にはいかない。」

綾子は、大きく息を吸うと、手を握りしめた。


そして依楼葉も、桜子の懐妊の知らせを聞いて、心は落ち込んでいた。

恋しい、恋しいと言うても、夫婦仲は順調。

ましてや、世継ぎが産まれれば、新たに女御を迎えなくても済む。

自分など、もういらぬ存在なのだ。


夜中、依楼葉が自分の部屋で休んでいると、誰かが廊下に来ていて、御簾納の前に座った。

「尚侍、私だ。」

その一言で、依楼葉は分かった。

この方は、帝、桜の君なのだと。