ある日の事だった。

湯浴びが終わり、帝が朝食を摂っているところだった。

太政大臣・橘文弘が、清涼殿に駆けてきた。


「主上、主上!」

「どうなされました?お義父上。」

橘文弘は、帝の側に座るなり、体を震わせた。

「主上、お喜び下さい!桜子が桜子が……」

「藤壺が、どうしたと言うのです?」

そして、橘文弘の目から、ポロッと涙が零れた。

「桜子は、身籠りましたぞ。」

帝は箸を片手に、体が固まった。


「よかった。よかった!」

だが義父である橘文弘は、涙を流しながら喜んでいる。

「……待った甲斐がありましたなぁ、主上。」

「ああ、ええ。」

だが帝は、腑に落ちなかった。

ここ2か月の間、桜子の元を訪れてはいなかったからだ。


「早速、桜子にお褒めの言葉を、掛けてやってください。」

「そうですね。有難うございます、義父。お知らせくださいまして。」

「いやいや。本当によかった。」