「藤壺の女御様の仰る通りです。何かの手違いだったとは言え、私の落ち度でございます。」

「落ち度ではない!」

「されど!」

帝は、依楼葉の手を取った。

「そなたは、ここで負けてもよいのか?」

依楼葉は、息が止まった。

「そなたが、私に振り向いてくれないのは、藤壺の存在が大きすぎるからであろう?今、それに負けてそなたが里に帰れば、私のこの恋しい気持ちは、どうしたらよいのだ。」

「主上……」

「無理に気持ちを受け止めてくれと言うのは、もう止めた。だが、せめて、側にいてはくれぬか?」

依楼葉は、帝の手の温もりを、放したくないと素直に思った。

「弱気になるな。私がいる。私が、そなたを守る故、里に帰るなど、二度と言わないでくれ。」

依楼葉は、大きく頷いた。


だが、この様子を密かに見ている者がいた。

そしてその様子を、藤壺に戻った桜子に知らせる、その者。

桜子は、扇をパタンと閉めた。