「蔵人の誰かであろう。御簾納の中に二人で入ったとて、情を交わしていたかなど、誰も分かるまい。」

「では、和歌の尚侍との間に、そういう事はなかったと仰せですか?」

「ああ。」

冷静に話す帝の様子に、依楼葉は胸が痛くなった。

自分と言う人間は、本当に勝手だ。


帝と気持ちを通わせながら、桜子のようにはなれぬと、受け流す。

その一方で、あの情を交わした事でさえ、ないモノにされると、身を引き裂かれるように辛い。

一体、自分はどうしたら、いいものなのか。

いっそ、尚侍など止めて、余生を家でゆっくり、過ごしたいとも思った。


「分かりました。主上がそこまで言うのなら、私は信じましょう。」

桜子はスクッと立つと、清涼殿を後にした。

後に残った依楼葉は、帝の前で手をついた。


「主上。いっそ私を、里にお返し下さい。」

「駄目だ。」