「う、受け流す!?」

恋の一つもした事のない依楼葉には、到底分からない世界だ。

「いいか、依楼葉。咲哉が一歩前に歩く度に、女房一人が立ち止まる。父親の私が、羨ましく思う程にな。」

「一歩事に、女房一人……」

依楼葉は、ふらついた。

「それだけでなない。咲哉は、その一人一人とすれ違う度に、微笑みかけていた。決して無下にはしないのだ。」

「な、なんてことを!」

依楼葉は、信じられずに柱に、手をついた。

「だが全く、恋の相手にはしない。あくまで咲哉が相手にするのは、桃花一人なのだ。他の相手は、受け流す。良いな。」

「わ、分かりました。受け流す、受け流す……」

依楼葉は、自分に言い聞かせた。


「では、参るぞ。」

依楼葉が、父の後について、歩き始めた時だ。

一人の女房が、依楼葉を見つめる。

ドキッとした依楼葉だが、言われた通り微笑むだけで、通り過ぎた。

するとまた、他の女房が立ち止まる。