依楼葉が顔を上げると、そこには橘の君がいた。

少し顔を伏せた依楼葉。

「……そなた、どこかで文書を見ませんでしたか?」

「いえ。見ませんでした。」

「そうですか。ありがとう。」

依楼葉は、橘の君に背中を向けた。


すると橘の君は、そっと依楼葉の腕を掴んだ。

「和歌の尚侍。もしや、その文書と言うのは……」

依楼葉は、血の気が引いて行くのが、分かった。

「やはり、そうなのですね。」

そう言うと橘の君は、部屋中を探し始めた。

「橘の君?」

「和歌の尚侍。こういう時は、一緒に探した方が、見つかるものですよ。」


その真剣に探す様子を見て、依楼葉は、橘の君を誤解していたのかもしれないと思った。

「和歌の尚侍。一体、どういう事なのです?」

藤の君も、依楼葉に近づいた。

「実は、夏の右大将様から、帝へ渡してくれと、文書を預かったのですが、いざ帝の前でお渡ししようとして、近くにないのです。」