「いえ、夏の右大将から帝に渡して頂きたいと、直々に預かった文書があるのですが……」

「夏の右大将から?」

側近の中でも、一番の側近からの文書ともなると、帝も気がかりだ。

だが依楼葉の、懐にも衣の下にもない。


「もしかして……ないのか?」

依楼葉は冷や汗をかいた。

「申し訳ありません。探して参ります。」

慌てて立ち上がり、依楼葉は今歩いて来た場所を、探した。


お湯殿から清涼殿までの廊下、お湯殿、自分の部屋。

「どうしました?和歌の尚侍。」

偶然、藤の君が通りかかった。

「ああ、藤の君。どこかに、文など落ちてはいませんでしたか?」

「文?はて、見ませんでしたが。」

依楼葉は、またウロウロと、いろいろな場所を探し始めた。


「和歌の尚侍。何をお探しになっているのです?」

藤の君がいる反対側から、声が聞こえてきた。

「ああ、そなた……」