「右大将様が?分かりました。すぐ参りましょう。」

「はい。」

依楼葉は、橘の君と一緒に、右大将・橘厚弘の元へ来た。


「おお、これはこれは和歌の尚侍。」

久しぶりの再会に、橘厚弘は嬉しそうにしていたが、なにせこの方は咲哉に扮していた時の自分に、会っていた人物。

油断は禁物だ。

依楼葉は、顔が分からないように、部屋に入ると直ぐに膝をつき、頭を下げた。


「私をお召しとの事ですが、何用でございましたか?」

「私の陳情書を、帝に渡して頂きたいのです。」

「畏まりました。」

依楼葉は、少しずつ橘厚弘に近づくと、両手で文をもらい受けた。

だが、橘厚弘はなかなか文を、放してはくれない。

それどころか、じーっと自分を見ているような気がするのだ。


「あの……」

「これは、失礼。」

そこでようやく橘厚弘は、手を放してくれたのだが、まだ依楼葉は見つめられているような気がした。