お父上がいないその女一宮様は、その後どうしているのか。

お一人で、寂しい思いをされているのか。

そう思うと依楼葉は、手離しでは喜べなかった。


「そう考えると、和歌の尚侍なら、藤壺の女御様と対等にやっていけそうね。」

「だから藤の君。私には、そんな気さらさらなくてよ。」

その時だった。

戸の影に、人影が見えた。


「どなたです?」

依楼葉が声を掛けると、戸の影にいた者は、慌てて姿を現した。

「橘の君……」

「申し訳ありません。用があって参ったのですが、お二人のお話があまりにも盛り上がっている為に、なかなか割って入る事ができませんでした。」

藤の君は、扇で恥ずかしそうに顔を隠した。

「それは、大変申しわけない事をしました。それで、用とは?」

依楼葉が尋ねると、橘の君は部屋の中に入った。

「はい。実は、我が夫右大将が、和歌の尚侍を、お呼びでございます。」