依楼葉は、直ぐ近くにある藤壺を、チラッと見た。

まさか、自分の一人が女御である為に、他の女御を下がらせるなんて。

しかもまだ入内もしていない自分に、敵意を見せるとは。

依楼葉は、途端に桜子の事が、恐ろしくなった。


藤壺に仕えている時は、そんな素振り一つも見せた事はなかった。

だがそれは表の顔で、裏でいろいろな事をしているに、違いない。


「藤の君。これからも、何か怪しい事があったら、私に教えて頂けないかしら。」

「ええ、もちろんでございます。和歌の尚侍。」

依楼葉は、藤の君に笑顔を見せた。


その時、手を冷やしていた橘の君が、やってきた。

「橘の君。」

「はい。」

橘の君は、依楼葉の姿を見ても、顔色一つ変えない。

もしかしたら、自分の思い過ごしであったか。


「手はどうです?赤い部分は、引きましたか?」

「ええ、大分。」