「私が湯殿を去ってから、帝が湯殿に入るまでの間、その場所にいた方は?」

「橘の君ですわ。」

やはりと、依楼葉は思った。

「でも疑うのなら、他の方ですよね。」

依楼葉は、藤の君の方を向いた。

「どうして?」

「だって、もし橘の君がお湯を誤魔化したのであれば、ご自分で火傷などするかしら。」

藤の君は、首を傾げた。

「……そうね。」

恐らく、橘の君の狙いはそこなのだ。

自分自身が火傷する事で、同情を買い、疑いの目を他に向けさせようとしているのだ。


けれど、それが帝の言う『藤壺には気を付けて。』と言った言葉に、何が関係あるのだろう。

「そう言えば、風の噂で聞いたのだけれど。」

「はい。」

藤の君は、私にそっと近づいた。

「あなた様、帝の元に入内するお話があるんですって?」

「入内!?」

依楼葉は、慌てて口を塞いだ。

「いえ、そんなお話はないです。」