すると一斉に、桜子の女房達が騒ぎだした。

「何があったのです?」

藤壺の女御である桜子に聞かれては、答えぬ訳にもいかない。

「……お湯が、火傷をするくらい、熱くなっておりました。」

「まあ!」

桜子は、扇で顔を隠しす程驚いた。


その時、お湯殿からちょうど、帝が出てきた。

「主上!」

桜子は、帝に近づいて行った。

「只今、お湯殿の事を聞きました。お怪我は、ございませんか?」

「ああ、私は大丈夫だ。」


すると桜子が、依楼葉の方に振り返った。

「和歌。」

「は、はい!」

振り向いた桜子の顔は、目を細くして、冷たい表情であった。

「そなたがついていながら、この不祥事。何とするつもりです?」

「も、申し訳ございません。」

依楼葉は、床に額をつける程に、頭を下げた。


「帝をお湯殿に通す前に、お湯を確かめるのは、そなたの役割であろう。」

「はい。」