「はい、氷で手を冷やしていらっしゃいます。」

「そうか。」

尋ねた女房によると、すぐそこの廊下にいるとの事で、依楼葉は橘の君を見つけた。

「大丈夫でしたか?橘の君。」

振り向いた橘の君は、無理に笑顔を作っていた。

無理もない。

手が真っ赤になる程、火傷をしたのだから。

「はい。氷を頂いたので、なんとか水膨れには、ならないようです。」

「それはよかった。」

依楼葉は、橘の君の隣に座った。


「橘の君。そなたは、私が湯殿を出てから、帝が湯殿に入るまで、お湯殿にいましたね。」

「は、はい。」

「誰か……」

怪しい人を見なかったかと、橘の君に尋ねようとした時だ。


後ろから静々と、藤壺の女御がやってきた。

「藤壺の女御様!」

依楼葉と橘の君は、その場で頭を下げた。

「和歌。帝のお湯殿で、不祥事があったと言うのは、本当ですか?」

「……はい。」