依楼葉は、もう一度だけ湯槽の温度を確かめた。

今度も、帝好みのぬるめのお湯だ。


「お待たせ致しました。主上、お湯殿をどうぞ。」

「うん。尚侍、ご苦労であった。」

その言葉を機に、お湯殿番の女房達も入ってきて、帝のお湯殿が始まった。

依楼葉の衣を羽織っていた帝は、スッと依楼葉にその衣を渡した。

「あのままでは、風邪をひくところであった。助かったぞ。」

「恐れ入ります。」

帝が着ていた自分の衣を受け取ると、どことなく、帝の移り香を感じた。

依楼葉はその移り香が残る衣を、ぎゅっと抱きしめた。


「……失礼致します。」

その衣を持ったまま、依楼葉はお湯殿を出た。

でもこの移り香に、溺れている暇はない。

早くこの事態がなぜ起こったのか、確かめなければならない。

依楼葉は、上衣を羽織った。


「ところで、橘の君はどうしました?」

依楼葉は、手を怪我した橘の君が、気になった。