「帝、尚侍になったばかりで、このような……」

すると帝は、依楼葉の上衣を顔に近づけた。

「うん。何とも香しい。」

「お、主上……」

依楼葉の衣を持っていた女房は、これは邪魔になると、顔を隠しながら去って行ってしまった。


「起ってしまった事を責めても、仕方ない。問題はなぜ、起ったのかだ。」

依楼葉は、ハッとした。

「はい。」

依楼葉は、一生懸命考えた。

自分が湯殿にいた時、湯槽の中のお湯の温度は、少しぬるめだった。

湯殿のお湯は、外で沸かしたお湯を、この桶で運んで来て、この湯槽に入れる。

自分が湯殿を出てから、主上が湯殿に入るまでの間、ここにいた者は……


「あの……」

女房の一人が、湯殿を覗いた。

「はい。」

依楼葉が近づくと、湯殿の戸口には、何人かの女房が既に集まっていた。

「そろそろ、帝のお湯殿を始めませんと……」

「ああ、そうでしたわね。」