お湯殿から、女房の声が聞こえてきた。

依楼葉が立ち上がると、お湯殿から来た女房が、倒れるように抱き着いてきた。

「尚侍様、大変です。」

「何があったのです?」

「お湯が、お湯が……」

依楼葉はハッとすると、お湯殿へ急いだ。


辿り着いたお湯殿には、帝の周りに女房が二人、そして蹲っている女房がいた。

「橘の君!」

蹲っている女房は、先程話しかけてきた橘の君だった。

「どうしました?」

見ると、手が赤くなっている。

「これは……」

依楼葉がお湯に手を入れようとすると、隣から手が伸びてきた。

「入れてはならぬ。」

伸びた手の持ち主は、帝だった。


「お湯が、火傷するかと思う程の、熱さなのだ。」

「えっ?」

依楼葉は、急いで桶に水を入れると、橘の君の赤い手をその中に入れた。

「主上。倉にとってある氷を、少しだけ分けて頂けますか?」

「ああ、許す。」