なぜ、橘の君と言うのかは分からないが、依楼葉は橘と言うだけで、あの細い目をする太政大臣を思い出した。

そう思うと、あまり関わらない方がいいと、ふと考えが過った。

「では、帝をお湯殿に、ご案内いたしますね。」

「はい。」

依楼葉は、橘の君を含む2、3人の女房を残して、お湯殿を出た。


清涼殿では、お湯殿の準備をしていた帝が、夜の御殿で待っていた。

「主上。お湯殿へどうぞ。」

「ああ。」

顔を下げているのに、帝からの視線を感じる。

依楼葉は、目を合わせてもいないのに、心臓の鼓動が煩くてたまらなかった。

その後、スーッと自分の横を通り過ぎた時も、体中の神経が外側に向いているような気がして、全てて帝を感じ取っているのだった。


こんな事が、毎日起こるのか。

依楼葉は、小さなため息を吐くと、小さな幸せを息を一緒に、吸い込んだ。

その時だった。

「きゃあああ!誰か、誰か!」