さて帝は、朝にお湯殿に入る。

その準備をするのも、帝の尚侍のお勤めの、一つであった。


「お湯の加減は、どのくらいなのでしょう。」

依楼葉は、先に仕えていた女房に、尋ねる。

「そうですね。少しぬるめの方が、いいと仰せでございました。」

「そうなのですね。」

「はい、ゆっくりと浸かりたいからなのだと。」

依楼葉は、尚侍の務めを通して、帝の事を知っていくことが、なによりも嬉しかった。


「そろそろ、帝をお迎えしても、よろしいかと。」

依楼葉は、見慣れた顔の女房を見つけた。

「そなた、確か藤壺の女御様の元で、一緒にお勤めをしていた……」

「はい。覚えていて頂いて、嬉しく思います。」

その女房は、依楼葉と同じ桜子の元で、女房をしていた者だった。

綾子からは、橘の君と言われていたような。

「橘の君と、申しましたよね。」

「はい、その通りでございます。」