藤壺の女御様が着ていた衣を、和歌の姫君も、袖を通すと言うのか。

「和歌ももう、尚侍。帝の側にお仕えするのであれば、豪華な衣の一つも、必要でしょう。」

あまりの優しさに、綾子の目に、涙が溜まる。

「とは言っても、関白左大臣家の姫君に対して、余計なお世話かもしれませんね。」

「いえ。」

綾子は、首を横に振る時に、一緒に涙も拭いた。

「きっと和歌の姫君も、お喜びになるでしょう。」

そして、無理に笑って見せた。

「うん。では、そうしておくれ。」

「はい。」

綾子は早速立ち上がると、桜子の衣が置いてある場所へと、足を運んだ。

太政大臣の娘である桜子の衣は、右大臣家の姫である自分であっても、羨ましいくらいの豪華なモノばかりだ。

その中でも、桜子があまり、袖を通さない衣があった。

綾子はそれを畳むと、他の女房を連れて、尚侍になったばかりの和歌の姫君に、持って行くのだった。