「帝は、藤壺の女御様を恋い慕っておられます!それなのに、他の女御様など、いるはずもありません!」

桜子は、寂しく笑った。

「ああ、綾子。そなたがいてくれれば、私はこれからも、なんとか生きていけそうです。」

「何を仰います!」

桜子は、尚も励まし続ける綾子の手を、そっと握った。

「ありがとう、綾子。」

「藤壺の女御様……」


そして手を放した桜子は、ふと後ろに置いてある絵巻に、目をやった。

「そう言えば、和歌にも女房の時には、世話になりましたね。」

そう言って桜子は、目を閉じた。

「勿体ないお言葉。女房は、藤壺の女御様のお世話をするのが、お勤めでございますのに。」

綾子は、だんだん桜子が、憐れに思えてきた。

「綾子。一つ、頼まれてはくれまいか?」

「はい、何でしょう。」

「私の衣を一つ、和歌に持って行ってくれまいか。」

「えっ!?」