さて、依楼葉が女御の位に近い、尚侍になった事で、藤壺の女御・桜子は居ても立っても居られない。

まだ、子供もできない身で、他の女が帝に近づくなど、腹が立って仕方ないのだ。

帝のお子、次の帝を産むのは自分だと、幼い頃から言われ続けてきたせいかもしれない。


「藤壺の女御様……」

そんな苛立った状態を、ずっと見続けてきた綾子は、桜子が不憫でならない。

本当は、心の底から優しい方なのに、煩わしい事が増えていくばかりで、心休まる時がないのだ。

「綾子。」

「はい。」

「私はあとどのくらい、帝の近づく姫を、押しのければよいのだろう。」

綾子は、胸が潰れそうになった。

「もう少しでございます。もう少しで、藤壺の女御様が、ご懐妊されれば……」

「それを聞くのも、飽きた……」

桜子は、豪華絢爛な御帳台を、手に取った。

「幼い頃から父上に、そなたにはこのような暮らしが待っているのだと、聞かされた。」