今迄も、この表情を持った桜子に、入内したばかりの女御が、幾人もやられ結局、女御は桜子だけになっていった。

「ふふふっ。」

思わず声に出して笑ってしまった。


「父上?」

「いや、失礼。」

顔を上げた桜子は、いつもの表情に戻っている。


美しい、太政大臣の娘。

寵愛深い、帝のただ一人の女御。

皆が憧れる姫君の姿を、桜子も素知らぬ顔で、演じているのだ。


「桜子。相手は、関白左大臣家の姫君。手荒な真似は、控えなさいよ。」

すると桜子は、にっこり笑った。

「何の事でしょう、父上。」

桜子は、自分の蛇の表情も、父に見せない気なのだ。


それでこそ、我が娘よ。

「では。」

「また、いつでもお出で下さいませ。」

橘文弘は立ち上がると、藤壺を出た。


「ふふふっ……ふははははっ!」

思わず高笑いしてしまう。

「和歌の姫君よ。いくらそなたでも、敵う人ではない。」

橘文弘は、扇を広げた。