「先日の酒宴で、和歌の姫君の機転を、お気に召したらしい。」

「……そうですか。」

どんどん、桜子の顔が暗くなっていく。

「一度は、我が娘の気に入りの女房だからと、断ったのだが、それでもぜひにと仰せなのだ。如何する?」

桜子は、前に手を添えた。

「……帝がそう仰せなら、その意に添います。」


帝も帝なら、桜子も桜子。

帝の言う事には、所詮嫌だと言えない質なのだ。


「では、帝にはそう申し伝えよう。」

さて、これからどうしようか、橘文弘もこの後の事を考えようと、早々に立ち上がろうとした時だ。

桜子の表情が変わった事を、見逃さなかった。


それは、一言で言うと鬼の形相。

帝にそこまで気に入られた和歌の姫君を、憎んでいるのだ。

橘文弘は、扇の下で微笑んだ。

桜子にこの表情が戻ってくれば、こちらが何もせずとも、桜子がやってくれる。

これは好都合。