太政大臣・橘文弘と、帝は顔を見合わせた。

もしかしたら、和歌の姫君を、不用意に帝に近づきさせないように、藤壺の女御の、女房にした事が、知られてしまったのではないか。

だが、ここで引いてしまったら、それも泡の藻屑となってしまう。


「如何なのでしょう。帝の心内を、お聞かせ下さい。」

帝は、ため息をついた。

「そなたの言う事も、一理ある。運よく、我が女御になってくれまいかとな。」

太政大臣・橘文弘は、扇を強く握りしめた。

「だが、こればかりは、我が一存ではできぬ事だ。」

その言葉に、力も抜ける。

「和歌の姫君は、なぜか私と妹背になる事を、躊躇している、それは、なぜなのかは分からぬが、せめて和歌の姫君の気持ちが、私に向かってくれたらの話だと思っている。」

「そうで、ございますか。」


何よりも、和歌の姫君が、妹背になる事を躊躇っている事に、橘文弘は、望みを託す事にした。