明くる日、太政大臣・橘文弘が清涼殿を訪れると、帝は清々しい表情をしていた。

昨晩の祝宴で、鬱憤を晴らせたのか。

橘文弘は、自分が果たした役割に、少しだけ鼻が高くなった。


「主上。ご機嫌、宜しゅうございますね。」

「ああ、太政大臣か。」

帝の顔色もいい。

これならまた、桜子の元へ通ってくれると考えた。


「太政大臣。朝からで申し訳ないのだが、そなたにお願いがあるのだ。」

「はい、何なりと。」

気分が高揚しながら、顔を上げた太政大臣・橘文弘に、帝は思いもよらぬ事を告げた。

「関白左大臣の姫、和歌の姫君を、私の尚侍にしたいのだ。」

橘文弘は、一瞬息が止まった。

「何故、急に……」

「昨日の祝宴で、そう思うたのだ。あの者は、以前藤壺の絵巻の漢字を読めていた。だが昨日は、簡単な漢詩しか分からぬと申した。」

「はあ……」