「やはり、関白左大臣家の姫君。」

「この花の美しさに、心まで花色に染まってしまったと言う事か。」

「確かに。この席に相応しい詩よ。」


先程まで、”女のくせに””生意気な”と言っていた者達も、こぞって賛美の声をあげる。

依楼葉は、桜子の方をちらっと見た。

桜子は、満足そうに笑顔を浮かべている。


「見事よ。さすがは”和歌の”姫君と、言うだけの事はあるな。」

「……恐れ入ります。」

見合った帝も、満面の笑顔を見せてくれた。


一人面白くないのが、太政大臣・橘文弘だ。

漢詩は得意ではないと、依楼葉が言った時点で、皆の笑い者になると思ったのに、反って皆の賛辞を受けてしまった。

これでは、帝の寵愛も、益々深くなってしまうではないか。


だが帝は、太政大臣のそんな考えも、知らない。

「太政大臣も、そう思うであろう?」

帝は、橘文弘に同意を求めた。

「ええ、誠に。」

橘文弘は、笑顔を作りながら、そう答えた。