『女のくせに、漢詩が得意だなんて。』

『生意気な姫だな。』

『可愛げのない。』

そんな声が聞こえてくる。


依楼葉は、だんだん遠のく意識の中で、両手を前に出した。

「お許し下さい。漢詩は得意にあらず。ただ知っているだけの事でございます。」

つまり、目の前にある物は読めても、気の利いた事は言えないと、依楼葉は言ったのだ。

だが、漢詩が得意だからこそ、女房に迎えた桜子としては、面目が壺れてしまう。


「そこではございますが、代わりに詩を。」

「ほう。」

慌てて顔を上げた依楼葉に、帝は優しく微笑みかけた。

「聞かせておくれ、和歌の姫君。」

「はい。」

依楼葉は、息を吸った。


桜色に わが身はふかく なりぬらむ
心にしめて 花を惜しめば

(我が身は深い桜色になってしまっただろう。心に沁み込ませて花を惜しむので。)


その時、周りからわぁーっと、歓声があがった。