お勤めの間に、自分の臣下であっても、それが終われば、妻の父親だ。

「それは宜しゅうございました。ご覧ください、庭の花も美しゅう彩ております。」

「ええ。本当に見事な事です。」

帝の気持ちは、完全にこちら側に向いた。


「ところで、我が娘の女房に、漢詩の得意な者がおります。」

橘文弘の、少々大きな声に、依楼葉は体がビクつく。

明らかに自分の事を言っているのに、違いない。

「ほう。それは、和歌の姫君の事でありましょう。」

だがそれは返って、帝の関心を、またあちらに向けてしまったようだ。

それでも、橘文弘の一計は、進む。


「さすがは、主上。では、その和歌の姫君に、今の情景にあった漢詩を一つ、披露して頂くかな。」

これで周りの視線は、一気に依楼葉に注がれた。

辺りはシーンと、静まり返る。

「あの……」

依楼葉は、困りに困った。

なぜなら、漢詩が得意な姫君と言うだけで、自分を知らない公達が、コソコソ何かを言っているのだ。