このように、仲のいい姿を見せつけていれば、自分が入る隙間などないと言う事も、分かるだろう。

橘文弘は扇の影で、笑いが止まらなかった。


だが、祝宴が進むに連れて、橘文弘はいかがわしいモノを見つける。

それは、楽し気な雰囲気に乗じて、帝が和歌の姫君を見ている事だ。

和歌の姫君も和歌の姫君で、振り向く度に、扇の横から帝をチラッと見ている。

そして、時々目線を合わせては、人知れず二人で微笑んでいるのだ。


こんな人が多い場所で。

しかも、桜子の前で。

よくもそんな事ができるな。


橘文弘の苛立ちは、和歌の姫君に向けられた。

ちょうど、二人の視線がまた、合いそうになった時に、橘文弘はわざと帝に話しかけた。

「主上。今宵の祝宴は、如何ですか?」

驚きを隠しながら、帝は顔を太政大臣の方に向けた。

「そうですね。久々に楽しい時を、過ごしています。有難いことです。」