さて、依楼葉は藤壺に出仕し、桜子と帝の仲睦まじい様子を見てしまったのだが、それに落ち込んでいるのは、依楼葉だけではなく、帝も一緒だった。

「……上、主上?」

「あっ、ああ……」

蔵人に呼びかけられ、ハッと我に返るが、蔵人は不思議な表情をしている。

「主上、何かございましたか?先ほどから、心ここにあらずでいらっしゃいます。」

「いや、何でもない。……すまなかった。」

五条帝はもう一度、文書に目を通した。


すると、隣の梅壺から、女の笑い声が聞こえてくる。

「何やら、楽しそうですね。どなたが笑っているのでしょう。」


この清涼殿にいる者には分からなくても、目を瞑れば分かる。

あれは、和歌の姫君の笑い声だ。


「主上。少し、休まれては。」

「ああ。そうさせてくれ。」

五条帝は、立ち上がると夜の御殿に、籠ってしまった。


横になり、また目を瞑ると、聞こえてくる。

愛しい人の笑い声が。