そっと視線を返す依楼葉。

そして依楼葉は、帝と見つめ合った。


久しぶりの再会。

あの時は、もう会うのは最後だと思っていた。

藤壺に出仕しても、まさかお勤めの手を休めてまで、日中ここに来るとは、思っていなかったのだ。

だが今は、こうして側にいる。

依楼葉は、桜子に悪いと思いながらも、目を反らす事はできなかった。


「お上。」

桜子の声に、二人はスッと、目を反らした。

「この花を、お上の夜の御殿に、飾りましょう。」

桜子は、目の前の花を、すっかり気に入ったようだ。

「ああ。あなたがそう言うのなら、そうしよう。」

桜子に微笑む帝。

それだけで、依楼葉の胸は、切なくなった。


「では私は、お勤めに戻るよ。」

「はい。」

桜子と一緒に、依楼葉も頭を下げた。

「ねえ、お優しい方でしょう?」

綾子が、依楼葉の耳元で囁く。

「ええ。」

依楼葉は、桜の君の別な顔を、知ったような気がした。