「はい……」

「そんなに案ずる事はない。帝はお優しい方でありますよ。」

「はい。」


自分よりも、桜の君を知っている人。

この時だけは、依楼葉も桜子の顔を、見る事はできなかった。


その時だった。

女御の一人が、声をあげた。

「帝のお渡りでございます。」

その声に皆で、頭を下げる。

「藤壺。元気にしていたか?」

依楼葉の耳に届く、優しいあの声。

「はい。お陰様にて。」

「何も変わりはないね。」

「私にはございませんが、新しい女房を、迎えました。」

「ああ。一人、子を産む為に辞めた後の者だね。」

「はい。」

桜子と綾子が、依楼葉を見る。


ここで名前を言わなければならないのだが、言えば帝が知ってしまう。

いつかは知られるのだから、早めに知ってもらった方がいい。

そう思えば思う程、依楼葉は声を出す事ができなかった。

それを見ていた綾子が、依楼葉の腕を引っ張る。