危ないところだった。

あのまま、女御様の側にいる事になれば、他の女房達の妬みを買い、隼也を支える事も、難しくなるところだった。

依楼葉は、思わずはぁーと、ため息をついた。


「お疲れになられました?」

綾子は、そんな依楼葉を気遣った。

「いいえ。」

依楼葉は、笑顔で答える。」

「最初は、あのようなものよ。そのうち皆、気心知れてくるわ。」

「はい。」

そう言えば綾子も、右大臣家の姫だった。

もしかしたら、自分と同じ気疲れをしていたのかもしれない。


「そうだ。私、綾子様に聞こうと思っていた事があるの。」

「なあに?和歌の姫君。」

「どうして綾子様は、お名前で呼ばれているの?」

依楼葉を和歌の君と呼ぶように、通称で呼ぶのが普通だった。

「だって織姫って、あまり好きではないのよね。」

「そうなの?」

「一年に一度しか会えないし、機織りだって縫物だって、した事がないんですもの。」