だが、桜子はその女房を止めた。

「よい。なぜか、申してみよ。」

「はい。」

微笑みながら尋ねてきた桜子に、依楼葉は答えた。

「女が漢字を読むのは、男にとって面白くない事。ましてや、漢詩を読めるなど、生意気とも受け止められません。」

依楼葉は、ありのままの現状を伝えた。

「だが、そなたは漢詩が読めるのであろう?」

依楼葉は、手をぎゅっと握った。


依楼葉が漢詩を読んだのは、咲哉に扮した時のみ。

それは、男だったからだ。


「私は、漢詩は読めますが、男の方の前では、読めぬ振りを致しております。」

「まあ!」

実際は、そんな機会はないのだが、もしあったらならば、読めない振りをするだろう。

「あの時はあくまで、藤壺の女御様の、お力になればと思っただけでございます。」

出仕そうそう、お怒りをくらうような事をしてしまったと、依楼葉は心の中で、父に謝った。

「申し訳ございません。」