「……旦那様。依楼葉に出仕を強く推したのは、隼也の為だけですか?」

父・照明は、扇を広げた。

「もちろん、それだけではない。」

「では……入内の事、まだ諦めになっていらっしゃらなかったのね。」

「それはそうだろう。」

照明は立ち上がると、庭を眺めた。


「大臣になった家の者は、一度は娘を帝の元へ入内させたいと願う。だが、それ自体難儀な事だ。その上、寵愛を受け子を産み、あまつさえその子が次の帝になると言うのは、空から落ちてくる雨粒を、この手で掴むぐらいの奇跡よ。」

「左様でございますね。」

「それなのに、依楼葉はどうだ。まだ入内もしていないと言うのに、帝の寵愛を受けている。だが、依楼葉は依然男の成りで、帝に仕えていた事を気に留めて、それを諦めようとしている。不憫だとは思わないか?」

「ええ。咲哉の成りをしていたのは、この家の為。決して依楼葉の勝手な迷いではございません。」