父・藤原照明は、頭を下げた。

「そこで、我が娘に、ぜひ藤壺に女御として迎えたいと頼まれてしまって。」

「ふ、藤壺の女御様、直々に!」

父・照明は、額から汗が滲み出た。


「どうであろう。お互い娘を持つ親として、私の気持ちも分かって頂けるであろう?」

「……はい。」

ここで断る事もできない。

父・照明は息を飲みこんだ。


「ところで、左大臣殿のご子息ですが。」

照明が立ち上ろうとした時、橘文弘に呼び止められた。

「は、はい。」

「あの若者は、良い才能をお持ちだ。」

「あ、有難うございます。」

娘を気に入られ、息子まで褒められるとは、嬉しいはずなのに素直に喜べない。

「だが、以前のご子息……春の中納言殿と違うて、ご出世が早すぎましたなぁ。」

父・照明は、ハッとした。

「出世が早い者は、宮中でも敵が多い。気を付けた方がいいと、ご子息にお伝え願いませ。」

そう言って橘文弘は、去って行った。