「ほら、ご覧になって。春の君様よ。」

左大臣家に仕える女房達は、名前が満開の花を思わせると言う事と、妻の名が桃花と言う事から、咲哉の事を”春の君”と呼び、毎日のように遠くから眺めては、騒ぎ立てていた。

そんな様子を、対の屋敷から見ている依楼葉は、同じ双子であるにも関わらず、”姫君”と言うだけで、屋敷の中で大人しくしている事に、いささか不満であった。


「母上様。なぜ咲哉は、宮殿に出仕していると言うのに、我はこの屋敷で、大人しくしていなければならぬのですか?」

「これ、依楼葉。咲哉の事は、兄君。ご自分の事は、私と仰いなさい。」

同じ親から、同じ時に生まれたと言うのに、なぜこのように違うものなのか。

いや、殿方と姫君に分かれて生まれてきたと言うのに、なぜこのように似てしまったのか。

母である東の方は、毎日困り果てていた。