「あの……冬の君様?」

依楼葉が戸惑う中、冬の左大将はどんどん、依楼葉を連れて走って行く。

その内、冬の左大将と依楼葉は、広い庭に出た。


「ああ、冬の君。どこに……」

そこに立っていたのは、探し求めていた人だった。

「あなたは……」

振り返ったその人に、依楼葉は胸がつまる。


丁度一年前、ここで出会った恋しい人。

「桜の君様……」

「和歌の姫君……」

あの何も知らなかった出会いに想いを馳せて、依楼葉は涙があふれ出た。

「すみません。せっかく会えたと言うのに。」

「いいえ……」

帝、いや桜の君は、依楼葉の手を取った。

「愛しい人。どうか、泣かないで下さい。」

依楼葉は桜の君と見つめ合うと、どちらからともなく、抱き合った。


「冬の君。感謝するぞ。」

帝は、冬の左大将・藤原崇文に礼を言った。

「いいえ。お二人が会えるのは、こう言う時しかないと思いまして。」