振り返るとそれは、冬の左大将・藤原崇文だった。

「あ、あなたは……」

「あれ?もしかして私の事、覚えて下さっていたのですか?」

覚えているも何も、一緒に勤めを果たした仲だ。

だが、それも口にしてはならない。


しかも、冬の左大将は自分に気があって、親戚の家に行儀見習いに行っていると嘘をついていた時も、自分宛てに恋文を送ってきた相手だ。

「あの……」

「これは失礼。」

冬の左大将・藤原崇文は、依楼葉から手を放した。

「兄から聞いておりました。私を気に入って下さったとか。」

「あはははっ!」

なぜか笑出した冬の左大将。


「では私も、ある方から聞いておりますよ。あなた様は、帝の妹背(恋人の事)だと。」

依楼葉は、冬の左大将と見合った。

「それは……誰から……」

「知りたい?ついて来て下さい。」

そう言って冬の左大将は、再び依楼葉の手を取って、今度は走り出した。