あっと言う間に夜になり、大騒ぎしていた公達や女房も帰って行く。

花見の祝宴の終わりだ。

「お疲れ様でしたね、和歌の姫君。」

一緒にお膳を運んだ一人の女房が、依楼葉を労った。

「いえ。今年も雰囲気だけは、味合わせて頂きました。」

「まあ!和歌の姫君様ったら。」


周りを見るとお酒に酔って、座りながら寝ている者。

まだ話し込んでいる者。

女房を口説いている者。

いろいろな公達がいる。


依楼葉は、月夜に照らされた桜の花を見上げた。

こうしていると、思い出す。

桜の君と呼ばれた、帝と出会った時の事を。


その時だった。

茂みの中から、手招きする者がいる。

「えっ!これは……」

盗人か妖か、鬼か。

依楼葉は途端に、恐ろしくなった。

「だ、誰か……」

近くにいる者を呼ぼうとすると、茂みの中から手招きする手は、依楼葉を捕まえてしまった。

「お静かに、和歌の姫君。」