「実は、漢字に詳しい者がおりまして、その者に教えて貰ったのです。」

「そうだったのか。そのような者に仕えて貰っている桜子は、とても教養が深いのだね。」


花見の祝宴での、太政大臣・橘文弘の目論見は当たった。

家にある秘蔵の絵巻を帝に見せれば、必ず帝の気を引ける。

帝の気が引く事ができれば、桜子のいる藤壺に、一層通って下さることだろう。

橘文弘は、扇の下でクスクス笑っていた。


「ところで桜子。あの虞美人草の事、よく知っていたね。」

父である太政大臣・橘文弘は、そこが気になった。

「その漢字に詳しい女房と言うのは、どなたの事なのだね。」

橘文弘は、数多いる女房達を、一人一人見ていった。

「ここには、おりませんわ。」

「ここにはいない?」

帝の女御である桜子には、教養高い女房達を、集めていたつもりだった。

その時、一人の女房が口を開いた。

「関白左大臣家の和歌の姫君ですわ。」