恋多き女性と言われているけれど、本当は心から愛し愛される相手を、探しているだけなのだ。

だが綾子は、キョトンとしている。

「……私、和歌の姫君様に、春の中納言様の事、お話したかしら。」

「ああ、ええっと……」

これは依楼葉も、つい懐かしくて、うっかりしていた。

「……兄上様に、聞いたのです。大層美しい姫に、言い寄られたと。」

「まあ!春の中納言様が、私の事をそのように?」

昔の事だと言うのに、綾子は頬を染めて、嬉しがっている。


「はい。けれど、妻と喧嘩して仲直りしたばかりだから、気持ちに応える事もできずに、惜しい事をしたと、語っていましたよ。」

嘘も方便とは、この事だなと思った。

だが、あの時の綾子が、美しいと思ったのは、本当だ。


「そう……あの春の中納言様が……」

綾子は庭を眺めると、咲いている花を見つめた。

「春のように温かくて、美しい方だったわ。そう言う方は、早くにお亡くなりになってしまうものね。」