「そうでしたね。私も、覚えております。」

「今年は、祝宴に参加してみます?」

綾子が、依楼葉の手をとった時だ。

彼女の表情が、止まった。


「綾子様?」

依楼葉が、不思議そうに話しかけると、綾子はハッとして、依楼葉から手を放した。

「ごめんなさい。あまりにも、ある方に似ていらっしゃるから。」

依楼葉は、すぐに気づいた。

「……兄上様にですか?」

そう。

咲哉に扮した依楼葉を、間近で見た女房だ。

気づいても、おかしくはない。


「ふふふ。さすがは、和歌の姫君様。でも、似ているのは当たり前よね。和歌の姫君は、春の中納言様の双子の妹君様ですもの。」

微笑んだ綾子は、どことなく寂しそうだった。

「兄の事、まだ忘れてはいらっしゃらなかったのですね。」

なんだか、依楼葉も綾子が気の毒に思えた。


私が想う人は、私を想っては下さらない。


そんな歌を詠んだ綾子。