「そうそう。藤壺の女御様が、和歌の姫君に会いたがっていたわ。今、会える?」

藤壺の女御。

太政大臣・橘文弘の娘で、夏の右大将・橘厚弘の妹。

そして……

帝の、ただ一人の女性。


「ええ……女房をお断りした事も、直接謝りたいわ。」

依楼葉の言葉に、綾子は微笑んだ。

「では、行きましょう。」

「はい。」

綾子と依楼葉は、藤壺までの廊下を、歩いて行く。

「でもね、和歌の姫君。女房をお断りした事、藤壺の女御様は、あまりお気になさってないわよ。」

「そうなの?」

「ええ。ただ、残念がってはいたけどね。」


気にはしていないのに、残念がっていたと言うのは、どう藤壺の女御様に、切り出せばいいのだろうと、依楼葉は悩んだ。

「昨年は、この辺りでお働き下さったのよね。」

そこは、藤壺の少し手前。

花見の祝宴が行われる庭の、前だった。

ここで依楼葉は、祝宴に必要な物を運んでいたのだ。