「あの方は、強くて大きくて、温かい。皆の大きな光なのです。だからこそ、私ではダメなのです。」

母の東の方は、依楼葉の手を取った。

「依楼葉は、本当に帝の事を、心から恋い慕っているのですね。」

改めて言われると、顔が熱くなる。

「かつて、この母もそうでした。」

「母上様が?」

母の東の方は、優しく微笑んだ。


「私は、落ちぶれた貴族の家の娘でね。左大臣家の父上様とは、釣り合わなかったの。でも、父上はずっと私の元に、通って下さった。ある日私も、依楼葉と同じ事を、父上様に申し上げたのです。」


- もう、私の元へはお通い下さいますな。あなた様には、私よりももっと、相応しい姫君様がいらっしゃるかと存じます。 -

- 私にあなた以外に相応しい姫君等、いないと思う。 -


「父上様は、きっぱりとそう仰って下さってね。」

依楼葉も、帝の言葉を思い出した。

「その気になったら、いつでもいいなさい。」

そう言って母・東の方も部屋を出て行った。