男の成りをしていた時に、幾度なく勤めてお伺いした清涼殿が、思い出される。

その度に、帝の姿を見て、胸が打ち震えた事も。


「どうだ?少しは、その気になったか?」

だが依楼葉は、横を向いた。

「もう、帝のお話はなさらないでください。」

「依楼葉?」

「もう、お会いしないと、決めたのです。」

その横顔には、涙が光っていた。

「……分かった。今は、無理強いはしまい。」

父は、ため息をつきながら、部屋を出て行った。


残ったのは、母の東の方だった。

「……なぜ、そんな風に恋を諦めるのです?」

あんなに明るかった依楼葉の顔が、今は悲しい色に染まっている。

「母上様。私は、咲哉の振りをして、宮中に参内していました。そこで分かったのです。私では、帝をお支えする事はできぬと。」

「あなた程の、芯の強い姫がですか。」

依楼葉は、大きく頷いた。