「まあ、立ち話もなんですから、一旦座りましょう。」

「はい……」

橘文弘の背中を見て、藤原照明は扇で顔を隠した。

なぜ、依楼葉の事をそこまで知っているのか。

前々から思っていたが、橘文弘という男は、何があっても涼しい顔で相手に微笑む。

それが藤原照明にとっては、たまに胡散臭く見えるのだ。


「ここに致しましょう。」

帝がおわす清涼殿から、少し離れた部屋で、橘文弘と藤原照明は、互いに向き合って座った。

「関白左大臣殿。実は我が娘、藤壺の女房が、一人子ができ宮仕えができなくなったのです。」

「もしかして、その穴埋めですか?」

「関白左大臣殿の姫君ならば、申し分ない。」


藤原照明は、扇の裾から橘文弘を覗いた。

依楼葉を宮仕えさせるのは、大いに不安だが、場所が梅壺とあれば、帝の目にも止まる。

あの二人は、絶対惹かれ合っているはずだ。

帝の目に止まれば、依楼葉の入内も叶うのではないか。